2025.11.24【阪田執筆】キャンプディレクター日誌『我らの火を彼の地に埋めよ』
キャンプディレクター日誌2025.11.24

僕たちは土地を追われることになった。だからカウンシルを開いた。これまではキャンプの中の重要なアクティビティとして。しかし今回は、土地を追われるにあたって開催された評議会であった。
評議会に集まった人々は、偶然そこに集まったものも含めて、やはり多様性に満ちていた。世代も社会的状況も余島との関わりも違う、40名を超える人々が余島に集まった。評議会の最も重要な儀式として、やはりカウンシルファイヤーを行った。
薪の前に座って、最高責任者であるキャンプディレクターがマッチで火をつけた。幼な子たちが拾ってきた松ぼっくりに火がつく。斧で削った屑を少しずつ火に焚べていき、火が安定したところで評議員を選出した。
「子どもは後ろに退き、大人は前に出てきなさい」
カウンシルサークルに集まった人々ははじめ戸惑ったが、すぐに理解してその通りに座った。キャンプディレクターが焚き火の周りに集まった大人たちの顔をじっと見て、カウンシル(評議員)にふさわしくないと思った人を後ろの席に退かせた。
カウンシルの周りには大人、次いで子どもたちが集っていた。「まず、小さい子どもからこちらに来なさい」。評議会が始まった。
「小さい子どもたち、君たちはこれから先、もうこの場所で、我々が大切にしてきた言葉で、世界を学ぶことができない。持ってきた松ぼっくりに自分の想い、言葉を込めて火に焚べなさい。それは声に出してもいいし出さなくても良い」。
子どもたちは前に勇み出て火を明るくした。言葉にするものもしないものもいた。
母親に連れられて二人の幼な子がやってきて、恐る恐る火に近づき「ありがとう」と言って松ぼっくりを火に入れた。子どもたちが大人たちの背後に戻り、評議会が続いた。
「ではまず、若い人たちから火の前に来て語りなさい」。14歳、15歳の男女がやって来て火を明るくした。車椅子のカナタは、その場に座ったまま「僕は余島に来たら歩きたくなる」と言った。そして「また次回も絶対に来る」と言った。カナタは全てのカウンシルファイヤーで同じ言葉を語った。
アイリは「唯一の後悔があるとしたらそれは、僕をこの場所に導いてくれた里親と一緒に、この地を踏めなかったことだ」と語った。誰もがその変化に驚いた。ケイユウは「僕は ここに 来れなくなるのが 本当に 寂しい」と、いつも通り一言ずつ語った。その語りそのものがケイユウだった。だからみなが安心した。そしてまた火が明るくなった。
※※※
北京から来て評議員としてこの席に座っているファンファンは、「守れなくて申し訳なかった」と心痛な面持ちで語った。声が震えていた。
マリナは、この土地を我々が追われることを理解しようとしなかった。そして今でも理解していない。拒絶は希望を表していた。
ひとつずつ、薪を崩していって、やがて火が消えた。
100年の歴史を持つキャンプ場から、若いディレクターがやってきて評議員の席に座った。僕は余島を代表して、伝統の火を守りきれなかったことを謝罪した。そして彼に言葉を求めた。彼は少し臆しながらも、勇敢に言葉を繋いだ。いくつかの余島の伝統は東京YMCAから受け継いだものだ。余島の伝統のいくつかはまた東京YMCAに戻っていく。
僕たちはインディアンではないから、このカウンシルは半分くらい成功したと言っていいだろう。語らせるべきではないものたちを評議員に選んでしまった。自由と平等を重んじながら統治を成功させるのは至難の技だ。
幼な子のとき、私たちは幼な子のように感じ、幼な子のようにこの世界を見た。大人になった今、それを捨てた。
幼な子を出汁に使って、自らを免責する大人たちは、傍に退かなければならない。
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小さなミナミは、南の浜から動こうとしなかった。僕たちが余島を追い出されることを徹底的に拒絶した。だからしばらく足を踏み入れなかった。小さな10歳の少女の中には、山をも動かす信仰が生きている。拒絶し続けよ。カウンシルの火はそう語っていた。
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翌朝、努めて軽い調子で「さあ、自分たちの言葉を埋めるよ。これは儀式だ」とカウンシルサークルの外に穴を掘り、石室を作って、燃え残った薪と、持ち寄った品々を言葉と一緒に埋めた。
誰一人、真剣さに欠けるものはいなかった。幼な子たちは本当に、誰かが言葉を取り戻したとき、この薪を掘り起こし、もう一度火を灯すことになるだろうと信じているようだった。
こうしてひっそりと、秋が深まる森の中で言葉は封印された。封印は希望である。上書きされない記憶を、上書きしてはいけない経験を、土の中に埋めた。
相変わらず余島は、大地は、何事も無かったかのようにすべてを包み込んでいた。霜が降りる季節になった。異常に温かい海もやがて冷えて、いつものように寒い冬が、人を寄せつけない厳しい季節がやってくるだろう。